「若い肌」を取り戻すコツは、運動にあり
65歳超、週2回でも効果が
The New York Times : 2014年05月08日
65歳超、週2回でも効果が
The New York Times : 2014年05月08日
運動は肌の若さを保つだけではないようだ。年齢を重ねてからでも、運動を始めると肌が若返る可能性があるという、驚きの研究結果が発表された。
年を取るにつれ、肌の状態が変わっていくという悲しい経験をした人は多いことだろう。しわができ、カラスの足跡が取れず、肌がたるんでいく。こうした現象が生じるのは、肌の層の内部に変化が起こるためだ。
紫外線は関係なし。年齢により衰える肌
40歳を過ぎた頃から、肌のいちばん上の層であり、外側にある表皮の角質層が厚くなってくるのを多くの人が経験する。この層は死んでしまった皮膚細胞と少しのコラーゲンで構成され、年齢とともに乾燥し、密度が増していく。
同時に、表皮の下にある肌の層「真皮」は薄くなり始める。細胞の数と弾力が減り、その結果、肌がくすみ、たるんでいくのだ。
この変化は太陽光による肌のダメージとはまったく関係がない。純粋に、年齢を重ねた結果、生じるものだ。
■マウスでは効果が。人間では?
しかし、カナダのオンタリオ州にあるマックマスター大学の研究者たちは、こうした変化が本当に避けられないものなのかと考え始めた。同大学の過去の研究では、早く年を取るよう変化させたマウスに運動療法を施すという実験が行われた。すると、老化による症状が出現するのを防げたり、出てきた症状を消せたりした。
具体的には、この種類のマウスに運動をさせないでおくと、すぐにしわだらけになり、体が弱り、病気や認知症になった。そして、体毛が白髪になるか抜け落ちた。しかし、回し車を自由に使えた同種のマウスは、脳や心臓や筋肉、生殖器や体毛などが、運動をしなかったマウスに比べて、ずっと長い間、健康なまま維持できたのだ。白髪になることもなかった。
人間は大昔に体全体を覆っていた体毛がなくなり、肌が表面に出てきた。しかし、動物が運動をすることで、表面部分の年齢による変化を抑えることができるなら、人間の肌でも同じことができるのではないか。研究者たちはそう考えた。
この可能性をテストするため、まず29歳から84歳までの大学周辺の男女29人が集められた。このうち約半数は活動的な人々で、毎週少なくとも3時間、中程度以上の運動を行っていた。残りの半数はほとんど運動をせず、週当たりの運動時間は1時間未満だった。
集まった参加者に、研究者らはお尻を見せてくれるよう頼んだ。「あまり太陽の光にさらされない部分の皮膚を調べたかった」と、この研究を統括したマックマスター大学教授のマーク・ターノポルスキーは言う。彼は小児科学と運動科学が専門だ。研究結果は、アメリカのニューオリンズで今年4月に開かれた、米スポーツ医学会の年次会議で発表された。
研究者らは参加者から皮膚のサンプルを採取し、顕微鏡で調べた。年齢だけを基準に比較すると、ほぼ予想どおりの結果だった。年齢の高い参加者のほうが角質層が厚く、内側の層は大幅に薄かったのだ。
■65歳を過ぎた人も20~30代の肌に近づく
しかし、同じサンプルを運動習慣の違いによってさらに分類して比較したところ、結果は大きく変わった。40歳を過ぎると、運動を頻繁に行っている男女のほうが、著しく角質層が薄く健康であり、真皮は厚かったのだ。
運動をしている人たちの皮膚の組成は、実際の年齢ではなく20歳から30歳のそれにずっと近かった。たとえ、本当の年齢が65歳を過ぎていても、である。
しかし、研究者らが認識したように、運動をしている人とそうでない人の肌の状態の違いには、食事や遺伝、ライフスタイルなどほかの要素が影響している可能性もある。違いが運動だけによるものなのか、あるいはよい遺伝子に恵まれたのか、健康的な生活を送っているためなのかは判断できなかった。
そこで、次に研究者たちは運動をしていない人たちを集めて、まずお尻から皮膚のサンプルをとり、その後、運動に取り組んでもらった。今回の参加者は65歳以上で、研究がスタートした時点では、肌の状態はそれぞれの年齢としては標準的だった。
彼らは週に2回、ジョギングかサイクリングを行うというシンプルな持久力トレーニングに取り組んだ。運動の強度は、最大酸素摂取量の65%以上という中程度のもので、これを毎回30分間続けた。運動は3カ月間続けられた。
■運動による肌の変化が明らかに
3カ月の運動期間が終了すると、研究者らは再び皮膚のサンプルを採取した。すると、今回のサンプルにはまったく違う様子が見られた。皮膚の外側の層も内側の層も、20代から40代のものに非常に類似していたのだ。
ターノポルスキーは言う。「結果を大げさに言いたくはないが、本当に顕著な違いが見られた」。顕微鏡の下では、参加者の皮膚は「ずっと若い人のもののように見えた。そして、実験当初から被験者たちの間で変化させた部分は、運動を行ったという点だけだったのだ」。
運動をすることで、どのように皮膚の組成が変わるのかは、完全には明らかになっていない。しかしこの研究では、筋肉の活動によってつくられる物質の増加についても調査が行われた。マイオカインと呼ばれるこの物質は、血流に入って、筋肉から遠いところにある細胞の変化を促すことで知られている。
今回の研究では、運動を行った後の参加者の皮膚サンプルで、IL-15と呼ばれるマイオカインの水準が大幅に増加していることが発見された。研究のスタート時と比較して、50%近く多いIL-15が含まれていたのだ。
ターノポルスキーによると、IL-15以外のマイオカインやそれ以外の物質も、運動による肌の変化に関係しているのではないかという。したがって、IL-15を入れた薬や軟膏、注射を投与しても、運動と同じ結果は得られない可能性が高いと話す。
加えて、運動をすることでしわが消える、あるいは日焼けによるダメージが治るという証拠もない。それでも、「運動が私たちの体を複雑に変化させる、その仕組みは驚異的だ」とターノポルスキーは言う。下着に隠れた部分まで変えてしまうのだ。
(執筆:Gretchen Reynolds記者、翻訳:東方雅美)
(c) 2014 New York Times News Service